これは母親のお腹に入る時に胎内被爆し、白血病に冒されたヒロインの夢千代が経営する芸者置屋を舞台に、繰り広げられるさまざまな人間模様を描いたもの。
しかし、ここには不思議と過去を背負った影のある女性ばかりが集まって来るんですね。
そんな女達が愚痴を言うでもなく、馬鹿にするでもなく、互いに信頼し合い、寄り添いあって暮らしている。
一話一話から見えてくる登場人物のそれぞれの人間性。
今回印象に残ったのは、緑魔子演じるストリッパーのアサ子。
男にダマされ、なんとなくうらぶれてストリッパーなんかになっちゃったのかな。
流れ流れて、今は、場末のストリップ劇場で、甲斐性は無いが気持の優しい、あがた森魚 扮する年下の男のアンちゃんとささえあって、なんとか浮世を凌いでいる。
うろんなアタマで、なぜか人生を後ろめたいような思いで生きている女なんですね。
彼女からは本質的な人間の善さ、美しさ、打算のない本当の意味での可愛らしさみたいなモノが伝わってくる。薄倖だが純粋で気高さのある堕天使のような女。
モーパッサンの《脂肪の塊》や《寅さん》のリリーさん、《ラブレター》の白蘭《天国までの100マイル》のホステスのマリを連想させる。
若い頃は緑魔子といえば役柄にも関係していたのか、どこか得体の知れない、ぬめぬめ、ぬるぬるしたナメクジみたいな女優さんだなーと思ってたのですが、今またじっくり見てみると、素敵で可愛らしい女優さんですねー。
そしてもう一人は樹木希林演じる菊奴。
うちわのような平べったい顔をしてゲタゲタ笑う女。
ガラッパチで、調子が良くて如才のない、そのくせいやに現実的で、人が好いのか悪いのか、よく分からない、こういうぬけぬけしたタイプの人間には反発を感じてあまり好きじゃないのですが、菊奴にはそれでも何処か善良な暖かさがあるというか、頼りになる世話女房的なところもあり、そういうプラスアルファがあるので憎めないのかな。
それに他人のことはよく見えているのに、自分のことになると何も見えなくなってコロっとダマされてしまうちょっと抜けたところもある。
男好きなのでしょうかねー。好い男を見る度に「花があるでにー」なんてニンマリしちゃって。(^^)
モテないのでちょっと声をかけられると血迷ってしまうのか、傍から見てるとだらしのないカスみたいな男に惚れちゃうの。
芸者もいつまでも続けていけられる商売ではなくて、彼女達の結婚という2文字に賭ける女の夢たるや切実たるものがあるのだろうか。
前の横領男には置いてきぼりを食い、行き暮れてというような顔で、じーっと一点を見つめ、「うちは夢を見ていたんだにー」と泣きながら大きな口を開けてご飯を食べるシーンにはついホロリとさせられました。
《新》ではピーター扮する旅役者の本心が何処にあるのか分からないミステリヤスな男の魅力にはまり、二人で出奔してしまうのだが、やがてこの男からもポイと捨てられることは目に見えている。
芸者なんていう商売をしていると男を見分ける目は自然に出来てくるだろうと思われるのだが、優しすぎる性格が災いしてか、分かっていてもすっぱりと見限ることができなくて、ずるずると奈落の底に落ちて行くのだろうか。
金魚さんは生甲斐であるアコちゃんを失い、好きな男との結婚もままならずこれ以上生きていく希望を見出せず、店も家族も全部放り出し、金魚の元に転がり込んできたボンホ゛ン社長と心中してしまう。
藤森刑事の中条静夫。
実直で杓子定規な人間なのだが、強引なことの出来ない気の優しい、人の好さがある。
中条さんといえば《雲のじゅうたん》での真琴の父親役や刑事役で見てましたが、いい味を出している俳優さんで忘れられません。
前田純考の詠んだ歌に自分の人生を重ね合わせ、我が身の不運を嘆き悲しみ憂いに沈む夢千代。
夢千代を含め薄倖な女たちの美しく哀しい想いが暗い夜空にきらきら光り輝いているような良いドラマでした。